教育
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オムニバスセミナー 2022(R4)

開催日

2023/1/6(金)

時間帯 16:10-17:40
講師 池田 思朗 氏(統計数理研究所 教授)
講演題目

ブラックホールの姿をとらえる

要旨

 国際共同プロジェクト EHT (Event Horizon Telescope) collaboration はM87楕円銀河の中央にある超巨大質量ブラックホールの姿を世界で初めて撮影し,2019年4月に発表しました.そして今年5月,今度は我々の住む天の川銀河の中心にあるブラックホールの画像を示しました.いずれの画像もリングの形状を持っています.これは一般相対性理論から予想と一致しているため,ブラックホールが存在する視覚的な証明となりました.


 EHTは遠く離れた複数の電波望遠鏡を組み合わせる超長期線電波干渉計(VLBI:Very Long Baseline Interferometry)です.VLBIでは,観測データに対して計算機上でさまざまな操作によって,画像を求めます.私は統計分野の研究者として7年以上このプロジェクトに関わっていて,主に画像化のアルゴリズムに貢献しています.本講演では電波干渉計の概要,画像化の方法,そして画像を発表するまでの5年間,どのようなことが行われていたのかを説明します.

会場 物理会議室(理学部2号館3階)
開催日

2022/12/16(金)

時間帯 16:10-17:40
講師 Professor Marian Paluch(Institute of Physics, University of Silesia, Poland)
講演題目

Broadband Dielectric Spectroscopy as a Powerful Tool for Investigating Molecular Dynamics and Proton Reaction Kinetics of Condensed Matter Systems

要旨

 Broadband Dielectric Spectroscopy, BDS, is a powerful experimental technique developed to measure dielectric response of a condensed matter systems in a very wide frequency range, typically spanning from 1mHz to 100 GHz. In this presentation we will provide an exhaustive survey of the recent advances in the study of the molecular dynamics behavior of various glass-forming liquids (van der Waals, H-bonded, polymers, etc.) at different thermodynamic conditions as well as under confinement at the nanoscale by means of BDS. Moreover, we will demonstrate and discuss how dielectric spectroscopy can be successfully used to monitor kinetics of chemical equilibration process related to tautomerisation and mutarotaion phenomena observed in pharmaceuticals, saccharides and biological materials.

会場 物理会議室(理学部2号館3階)
記録 講義ビデオ
開催日

2022/12/2(金)

時間帯 16:10-17:40
講師 深川 弘彦 氏 (NHK放送技術研究所 新機能デバイス研究部)
講演題目

千葉大学での学びと社会での研究開発

要旨

 大学での学びを経て将来のキャリアをどうするのか、というテーマは大学生の誰しもが考えることである。本講演では、千葉大学出身の講師が学生時代をどう過ごし、企業でどのように研究開発に取り組んできたかを紹介し、聴講者が将来のキャリア形成を考え、これから何をすべきか・どう生きるべきかを考える機会としたい。
 講師は有機材料を使った発光デバイス(有機EL素子)の開発に取り組んでおり、世界最薄(厚さ0.07mm)のフィルム光源の開発に成功した。この革新的なデバイスの実現においては、学生時代の基礎研究から得た知見や学生時代に構築したネットワークが不可欠であった。当日はこのフィルム光源の実機に触れながら、開発の経緯について紹介する。

会場 工学部17号棟2階213号室
記録 講義ビデオ
開催日

2022/11/25(金)

時間帯 16:10-17:40
講師 早川 尚志 氏 (名古屋大学高等研究院/宇宙地球環境研究所 特任助教)
講演題目

歴史文献から探る過去の太陽嵐と太陽活動

要旨

 太陽は人類社会にとって最も身近な天体であり、人類の科学観測が最も長く続けられた対象でもあります。実際に、その活動の研究は地球上のエネルギー収支を考える際にも欠かせませんし、近年人類社会が送電網、通信網、人工衛星網などの科学技術インフラへの依存を強めるにつれ、太陽面での突発現象(太陽嵐)が人類社会に及ぼし得る影響もより大きなものになってきました。そのため、特に1957-1958年の国際地球観測年以来、太陽には地上観測、衛星観測を問わず数多の観測機材が向けられ、日々観測と研究が蓄積されています。
 しかし、太陽が百年に一度、千年に一度程度の激甚災害を起こした時には何が起こるのでしょうか。実際この問題には近年総務省が検討会を組織するなど、世界中でその対策が急がれていますが、現代科学観測の時間幅は必ずしも十分に長くありませんし、次の激甚現象が起きるまで待っているわけにも行きません。そこで手掛かりになるのが過去の歴史文献に眠る太陽黒点、太陽フレア、皆既日蝕、地磁気変動、オーロラなどの記録です。実際、このような歴史記録について、歴史学、天文学、地球物理学の知見を組み合わせて研究することで、太陽嵐や太陽活動の様子を過去3000年に遡って検討することが可能になりつつあります。そこで本講演では、このような最新の成果を織り交ぜながら、世界各地の歴史文献から過去の太陽の様子を復元する道のりについてお話しいたします。いわゆる文系と理系の境目での研究現場の逸話も併せて紹介できればと思います。

会場 先進科学センター会議室(理学部2号館2階) ⇒ 大講義室(理学部1号館 1階109)
開催日

2022/11/11(金)

時間帯 16:10-17:40
講師 徳久 剛史 氏 (千葉大学名誉教授(前千葉大学学長))
講演題目

免疫学に魅せられて

要旨

 ジェンナーが天然痘に対するワクチンである種痘法を開発してから200年以上が経過しています。この間、免疫学はワクチン療法の機構解明に向けて遺伝子操作などの生命科学分野における最先端の技術を取り入れて研究を進展させて、その機構を分子のレベルで明らかにしてきました。その成果が、今回の新型コロナウイルス感染症にも生かされています。しかし、免疫機能の異常から起きる自己免疫疾患やアレルギー疾患の病因や病態は、いまだ完全には明らかにされていません。
 私は、学部生の時に生体防御機構としての免疫に興味を持ち、大学院で免疫学を専攻しました。そして在学中に米国に留学する機会を得て、そこでワクチン療法の根幹となる免疫記憶細胞の分化機構の解明を研究テーマと定めて30年以上にわたり研究を継続し、最終的に免疫記憶細胞の分化を制御するマスター遺伝子を同定することが出来ました。
 そこで本講演では、初めに免疫機構とともにワクチン療法の基本的な機構を平易に解説します。さらに、新型コロナウイルス感染症で新たに開発されたRNAワクチンの長所や短所について説明します。つぎに、将来の研究者を目指す君たちに向けて、研究者になるための心構えや研究活動を継続するための考え方について、私のこれまでの経験を基に話します。本講演が、先進科学の学生たちの生き方のヒントになれば幸いです。

会場 物理会議室(理学部2号館3階)
記録 講義ビデオ
開催日

2022/7/22(金)

時間帯 16:10-17:40
講師 浅野 倫子 氏 (東京大学大学院人文社会系研究科 准教授)
講演題目

共感覚を通して覗く人間の認知処理

要旨

 「千」という文字を見ると(物理的には黒いことは分かった上で、それに加えて)銀色の印象を感じる、音楽を聴くと色を感じる、数字に特定の空間配置があるように感じる・・・これらのように、何かの情報(例:文字)を受け取った際に、脳内で、一般的な処理(例:文字の形や音、意味が分かる)に加えて、他の情報の処理(例:色の印象を覚える)も引き起こされる現象を共感覚と言います。共感覚は少数の人だけにあるものです。しかし、共感覚を持つ人も持たない人も含めた人間全般の脳内で様々な情報がどのようにして関連づけられるのかや、脳の情報処理に個人差が生まれるメカニズムを知るための手がかりの一つとして注目され、世界中で活発に研究が進められています。私は特に、文字に色を感じるタイプの共感覚である「色字共感覚」を研究してきました。
「文字に色を感じる」と聞くと、「目の構造が特殊なのかな」とか、「脳の中の、色の処理領域と文字の処理領域がくっついているのかな」という風に思われるかもしれません。しかし、近年の認知心理学を中心とした領域の研究の進展により、色字共感覚はそのように単純ではなく、言語処理や文字の学習などが深く絡む複雑な現象であることが明らかになってきました。この講演は、共感覚を覗き窓として、人間の認知処理の複雑さや“豊かさ”について考えを巡らせる場にできたらと思います。

会場 物理会議室(理学部2号館3階)
記録 講義ビデオ
開催日

2022/7/1(金)

時間帯 16:10-17:40
講師 Martin Morris 氏 (千葉大学工学研究院 名誉教授)
講演題目

Sustainability and the Traditional Architecture of Japan Cities that could revert to Summer Pasture

要旨

 Sustainability is an issue that has come to loom large in our consciousness and seems set to loom larger in the years ahead, posing enormous challenges for architects and the building industry, as the impact of industrialized humanity on the bio-rhythms of the planet comes into ever starker focus. There is much talk about “sustainable development”, but precisely what that might be rarely gets spelt out. Development – at least in the context of modern industrial civilization – too often resembles a flame, bright at first but consuming what it inhabits, and leaving it sterile and useless as it dies to flare elsewhere. In today’s talk, I want to consider my principal research area, the traditional architecture of pre-modern Japan, and suggest that it offers valuable lessons about what sustainable development might be, and demonstrates the compatibility of impressively sustainable building practices with a high level of material and architectural culture. In particular, I want to focus on an aspect of traditional Japan’s sustainability that can succinctly be expressed as “lightness of footprint”. I am using the term footprint here to refer to the kind of foundations buildings have, how deeply they are dug into the surface of the earth, and how easily they can be cleared away and re-absorbed into the natural environment.

会場 物理会議室(理学部2号館3階)
記録 講義ビデオ
開催日

2022/6/17(金)

時間帯 16:10-17:40
講師 西村 剛 氏(京都大学ヒト行動進化研究センター 准教授)
講演題目

サルの研究から探る言語の進化

要旨

 私たちヒトの言語の進化について、サル類との比較研究からわかってきたことを、お話しします。
 言語の起源と進化は人類進化の一大イベントです。しかし、その理解はいまだにほとんど進んでいません。言語は化石にならない。これが最大の障壁です。それゆえに、言語進化の生物学的研究では、言語を支えている数多くの生物学的特徴の一つ一つを、ヒト以外の動物と比較し、それらの系統進化プロセスを復元するという営為が積み重ねられてきました。
 言語は、音楽から、もしくは音楽との共通の前駆体から進化したという考えは、動物の音声コミュニケーション研究からよく支持されます。ヒトは、アイウエオといった音素の変化によって言語コミュニケーションをしますが、サル類は、音声の大きさや長さ、高さ、声質など、音楽的要素の変化によってコミュニケーションをしています。生物の音声が織りなす諸現象を比較研究する研究分野を生物音響学と言います。私たちの研究グループでは、ヒトに系統的に最も近いサル類を対象に、音声を作る身体の解剖学的特徴やその運動の生体機構に関する研究を行ってきました。それらの成果を織り交ぜながら、生物音響学的観点から、ヒトの言語がどのように進化してきたのかについてお話します。
 2020年にイグノーベル音響学賞を共同受賞しました。ワニにヘリウムガスを吸わせて行った研究です。人との繋がりや偶然の出会いによって研究が意外な方向に発展していくことがあります。そんな研究現場のエピソードも織り交ぜてお話しします。

会場 物理会議室(理学部2号館3階)
記録 講義ビデオ
開催日

2022/4/22(金)

時間帯 16:10-17:40
講師 須藤 靖 氏(東京大学 大学院 理学系研究科 物理学専攻 教授) 
講演題目

宇宙物理学から宇宙生物学へ:必然と偶然の間

要旨

 この世界は数学で記述される物理法則に支配されています。私が専門としている宇宙物理学とは、この物理法則に基づいて、宇宙の誕生からその中にある多様な天体諸階層の形成と進化を解明する学問です。この意味において、宇宙の歴史は必然的で理論的に予言可能だと言うことができます。
 ところで、1990年代に太陽系以外の星の周りの惑星が初めて発見されました。以来、すでに5000個を超える太陽系外惑星が発見されており、天文学における重要な分野の一つとして確立しています。そしてその先にあるのが、地球外生命の発見です。ただ、この地球における生命の歴史は必然というよりも偶然に支配されているように思えます。とすれば、物理法則に従った必然的な予言はできず、宇宙における生命は普遍的なものではないかもしれません。
 地球外の生命存在は必然かあるいは偶然か。現時点では正解はわかりませんし、観測的にその答えがすぐに見つかるとも思えません。しかし、これは明らかに、物理学、天文学、化学、惑星科学、生物学を総動員して解明すべき現代科学の究極のゴールです。今回は、宇宙物理学から宇宙生物学に至る将来の道筋を概観したいと思います。

会場 物理会議室(理学部2号館3階)

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