CFS_bro_2020
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錯視の例。この道路は遠近法で三角形に見える。頂点の角度は何度ぐらいに見えるだろう? 多くの人は50度~60度と答えるが、実は100度を超えている①植物細胞における原形質流動 ②速度改変型キメラミオシン。シロイヌナズナミオシンのモーター領域を高速型ミオシンまたは低速型ミオシンのモーター領域に遺伝子工学的に置換したミオシンを作製した。高速型ミオシン、低速型ミオシンそれぞれはシロイヌナズナ細胞内でオルガネラを結合して高速または低速で運動する。その結果、原形質流動速度が高速または低速になる最先端の研究へ「飛び入学」8◎「ドレスの色」問題でわかる、人間の認知力 しばらく前にSNS上を飛び交った「ドレスの色」問題。写真に写ったドレスが「青と黒」に見えたり「白と金」に見えたり。私たち研究者の間でもずいぶん話題になりました。インターネット上のドレスの色は、本当は青と黒なのですが、写真だと手前が日陰になっているので、「青く見えるけれども実際は白ではないのか?」ととらえてしまうのです。さらに、黒い部分はやや光沢があるように見えるので、ゴールドではないかという錯覚(錯視)が起こるのです。 モノ作りの世界では、多くの場合、人間がユーザーとして関わります。ついつい錯覚してしまう人間の行動や心の特性についての科学的理解に基づいて製品を作ることで、使いやすく、安全で、しかも、人間の能力をこれまでになく発揮できるようになります。そのような、人間の特性に合わせ、可能性を引き出すようなユーザーサポートシステムの構築が私たちの研究テーマです。 現在、研究室では認知科学と拡張現実(AR)を組み合わせた空間探索サポートシステム「千葉大学地図アプリ」を作成しています。人間の認知能力に合わせてナビゲーションを行うこのアプリをつくることで、将来的には、千葉県内の観光名所や都市部でのナビゲーションを可能にするシステムへと発展させることによる地域貢献も視野に入れています。さらに、認知科学的な基礎研究と応用研究とを組み合わせて人間に合わせたモノ作りを実現するノウハウを構築することで、千葉大に認知適応科学の研究拠点を構築することを目論んでいます。認知心理学研究室認知科学人間探求6column 千葉大学西千葉キャンパス内は敷地の関係で、道路や建物が斜めに配置されており、普通の地図では人間の感覚が合致しにくい。認知科学と拡張現実を応用して使いやすい地図を作成。千葉大学地図アプリ1994年 名古屋大学大学院理学研究科生物学専攻博士課程満了。1995年 同博士。産業技術総合研究所を経て、1998年千葉大学理学部に助手として着任し、講師、准教授を経て、2016年から現職。最先端の研究へ「飛び入学」◎原形質流動-200年の謎を解明 植物の細胞は動物の細胞に比べて大きく、細胞外から取り込んだ栄養物を単純拡散のみで細胞内にいきわたらせるには時間がかかります。一方、植物の細胞の内部にある原形質が動く「原形質流動」の存在は、今から200年も昔から知られていましたが、それが何のためにおこなわれているのかは大きな謎でした。 原形質流動は、「モータータンパク質」と呼ばれるミオシンXIがオルガネラ(細胞小器官)を結合した状態でアクチン繊維上を運動することで引き起こされ、物質の拡散を促進させています(図1)。そこで、ミオシンXIのモーター領域を他のミオシンのモーター領域に代替することにより速度を改変した「速度改変型キメラミオシンXI遺伝子」を作製し、モデル植物のシロイヌナズナに導入(図2)。すると、高速型キメラミオシンXIを導入したときは原形質流動速度が増加し、シロイヌナズナの成長が促進され、地上部の植物体のサイズが大きく、逆に、低速型キメラミオシンXIを導入したときは原形質流動速度が減少し、地上部の植物体のサイズが小さくなったのです。 この結果は、原形質流動の役割が植物細胞、植物体の大きさの制御であることを示唆しています。今後も研究を進め、原形質流動機構の解明のみならずバイオマス資源や食料などの増産にも寄与したいと考えています。7生物分子モーター研究室伊藤 光二千葉大学大学院 理学研究院 教授ナノバイオロジー生物学原形質流動の速度を変化させて、植物の成長をコントロールする技術を開発認知科学と拡張現実(AR)を活用して、使いやすい製品やシステムを作る大阪市立大学文学研究科後期博士課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、ヨーク大学での博士研究員、山口大学工学部講師・助教授を経て2006年に千葉大学文学部助教授として着任。2013年より現職。一川 誠千葉大学 文学部 行動科学コース 教授12column 飛び入学「生物学先進クラス」を2019年4月に設置しました。理学部生物学科(細胞生物学、分子生物学、生理化学、発生生物学、生態学、進化系統学)に所属します。生物学先進クラス2019年度設置

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