CFS_bro_2020
4/20

1983年、東京大学 工学部 物理工学科卒。オリンパスで研究開発に携わった後、1992年 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修了。博士(工学)。1992年から千葉大学画像工学科助手となり、2006年融合科学研究科教授。最先端の研究へ「飛び入学」2尾松 孝茂千葉大学大学院工学研究院 教授分子キラリティー研究センターセンター長分子キラリティー研究センターキラリティー物質科学①レーザー光の「キラルな光」で金属や有機薄膜の表面をキラルな構造に変える ②キラリティー(Chirality)。右手と左手のように同じ形だが、重ね合わせることができない構造を持つ物質 ③「キラルな光」を当てることで、金属や有機薄膜の表面をキラルな構造に変える実験の顕微鏡写真column 尾松孝茂教授は、レーザー光を利用したキラリティーの研究によって、米国光学会のフェロー表彰を受けました。また、平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰「科学技術賞」も受賞しています。◎世界を驚かせた千葉大学の発見 右手と左手は同じ形をしていますが、お椀を重ねるようには重ねることはできません。このように構成要素が同じなのに立体構造がその鏡像と空間的に重ならない性質のことを「キラリティー」と言います。キラリティーのある物質は、同じ化学式でも右手系と左手系で性質が異なり、一方だけに薬として効果があったり、一方だけが電子部品の材料としての性能が良かったりします。一般的に物質を合成した場合、右手系と左手系が同数生成されますので、キラリティーを創薬などに利用する場合、「左右」の使い分け・創り分けは重要な技術になってきます。 千葉大学分子キラリティー研究センターでは、「光のキラリティー」に注目し、物質にレーザー光を当てることで、物質を螺旋構造に変形させることができることを発見しました。キラリティーのない物質をキラリティーのある物質に変形させることができるのです。この現象は物理的な力学現象なのでどのような物質にも適用できます。原理的には右手系(あるいは左手系)の物質だけを100%創り分けることも不可能ではなくなったのです。 千葉大学に設置した「分子キラリティー研究センター」では、理学・工学・薬学・医学の教員が学部を超えて一丸となり、世界の頂点を目指して新時代の「キラリティー」の研究教育に挑戦しています。物質工学米国光学会(OSA)Fellow 表彰左手系右手系123右手系? 左手系?物質や光の性質を変える「キラリティー」3最先端の研究へ「飛び入学」◎南極の氷に5160個の「光検出器」を 埋め込んだアイスキューブ 宇宙から降り注ぐ、 「エネルギーの高い」物質の束(宇宙線)はどのように作り出されたのでしょう?千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターは、 この 字宙物理学上最大の謎を解き明かすことを研究ミッションとして掲げ、 その具体的手段として、素粒子の一つである「ニュートリノ」を捉えることで極限高エネルギー宇宙の現場を調べる手法を用いています。ニューリノは貫通力が高いため、宇宙探査には極めて有用ですが、 その性質ゆえに、 検出器を作っても痕跡を残さず、大半のニュートリノは素通りしてしまいます。そのため、希少な高エネルギーニュートリノが稀に残す痕跡を捉えるには巨大な体憤を持つ検出器が必要とされるのです。そこで、 南極大陸にある氷河を検出体に使おうという発想が生まれ、国際共同実験「IceCube」プロジェクトがスタートしました。現在は12ヵ国より52の研究機関がプロジェクトに参加しています。 2017年9月にIceCubeにより検出された超高エネルギー宇宙ニュートリノの事象を元に、ニュートリノの放射源天体の初同定に成功しました。これは千葉大グループが中心となり開発したアリゴリズムを使い、注視すべきニュートリノが検出された際、瞬時にその解析情報を世界各国の観測施設に送り追尾観測を行う速報アラートシステムによる成果でした。 2022年にはIceCubeのアップグレード建設が始まり、千葉グループ開発の新光検出器「D-Egg」が南極点の氷河下に埋設されます。これにより、さらに多くのそして正確な高エネルギーニュートリノの検出が可能となり、新たな放射源天体の同定につながることが期待されています。 学問は刻一刻と変化していきます。新しい分野は過去の蓄積が少ない分、特に若者の熱意が、その進展を左右します。ぜひともにチャレンジしましょう。1物理学吉田 滋千葉大学大学院 理学研究院 教授ハドロン宇宙国際研究センターセンター長ハドロン宇宙国際研究センター宇宙物理学1994年、東京工業大学で理学博士を取得。アメリカ・ユタ大学研究員、東京大学助手等を経て2002年、千葉大学に着任。超高エネルギー宇宙ニュートリノ発見への貢献により公益財団法人仁科記念財団より仁科記念賞を2019年に受賞。南極でニュートリノを観測し高エネルギー宇宙の起源を探る12column 超高エネルギー宇宙ニュートリノを南極の氷を巨大な検出器にして捉え、 その起源を探ろうという国際共同実験。世界12カ国から研究機関が参加。日本からは唯一千葉大学が参加している。①南極点にあるIceCubeプロジェクト観測所 ②千葉大生まれの新光検出器「D-Egg」 ③ブラックホールにガスや塵が落下しながら差動回転運動をしている様子をあらわしたシミュレーション画像3

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る